NBAの試合でタオルを振りながら応援する、ターバン姿の男をテレビでよく見たことがあるだろう。彼の名は Nav Bhatia。
御年67歳のおじいちゃん。あなたの甥っ子よりも大きな声で応援する。トロント・ラプターズのアリーナに行けば、必ずわかるほどの有名人だ。でも、知られていないことも多い。
彼は1995年以来、1試合も逃さずラプターズのホームゲームに足を運んでいる。そう、チーム誕生以来ずっと。すべての試合だ。Damon Stoudamire、Vince Carter、Chris Bosh をはじめ、数々のコーチたち、大停電、大吹雪、すべて知っている。
すごいだろ?いや、それだけじゃない。
彼は1980年代にほぼ無一文でカナダに移住してきた。言葉に訛りのあるターバン野郎はエンジニアの仕事を見つけられず、治安の悪い地域の自動車ディーラーで働くことになった。
大変だろ?いや、彼にとってはそうじゃなかった。
わずか90日間で127台もの車を販売した。今でもその地域の最高記録だという。彼の販売スタイルは昔ながらのもの。ただ誠実であること。もちろん、定番のラジオCMも。彼は優秀だったため、当然のように代理店の権利を買い取った。
立派だろ?いや、まだある。
彼は代理店をもうひとつ買い取った。ところが、事業はうまくいかないときも。それでもラプターズのシーズンチケットを手放すことはなかった。高額だけれど、彼は気にしない。チームを愛していたから。ダサい恐竜のチームロゴも、誇りをもって愛した。
ラプターズのアリーナでベースラインに目を向ければ、そこにあるのは彼のとびきり間抜けな笑顔。カナダ国旗を振りながらチームを応援するときこそ、移民の人たちがカナダ人であることを実感する瞬間だ。スポーツは万人に平等だから。
ほかの街では彼のような存在は目立つかもしれないが、トロントならそんなこともない。ここは移民と文化の多様性で成り立っている。ラプターズの試合を現地で観戦したことがある人に質問してほしい。誰もが、世界でもっとも多様性のある場所だと答えるだろう。
会場を飛び交うさまざまな言語に、韓国人と一緒に試合を楽しむドレッドヘアの黒人。ほかの街では見かけない光景だ。トロントでは至って日常。トロントがトロントである理由。Charles Barkley がトロントを愛する理由。Shaq や LeBron が毎夏、訪れる理由。カナダが特別である理由。
世界が壁をつくろうとしている中、カナダは橋を架け続けている。その象徴が Nav Bhatia という男。彼はトロントそのものだ。懸命に働き、成功したら他者へ還元する場所。
彼は事業が順調なときも、それで終わらせない。毎年、3千万円以上を費やして、移民家族をラプターズの試合に招待している。彼らの生きる場所を見せるためだ。
バスケットボールはスポーツ以上の価値がある。
NBAファイナルが始まれば、世界中の人たちがトロントを知るだろう。多様で力強く、思いやりの街、トロント。67歳のターバン野郎が先頭に立って応援する。トロント市民、カナダ国民が待ち望んだ瞬間だ。
With the #Raptors about to hit the global stage, I’m going to share a story about what makes Toronto, and Canada, so special. It’s about a guy you’re going to be seeing a whole lot of.— Muhammad Lila (@MuhammadLila) May 26, 2019
A Thread.
[Hint: It's about racism, sports, and why you'll end up cheering for 🍁]
編集後記:トロント、そしてカナダの文化的背景を紹介した現地記者の言葉。https://t.co/2zfSHikNCz— Hikki Sicks (@hikki76) May 29, 2019
それをふまえて改めて読んでほしいのが以前、掲載したDeRozanの記事。彼を追い続けたTOR番記者が想いのままに綴った別れの手紙。その気持ちがより理解できるはず。https://t.co/8LXEkfgZRR
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